
特定技能「自動車運送業」の制度概要から、受入機関が満たすべき要件、外国人申請人が国内採用・海外採用それぞれで注意すべき点、さらに外国人運転手が事故を起こした場合の在留資格への影響までを解説します。
トラック・タクシー・バスドライバーの採用を検討する企業・外国人双方必見の内容です。
1. 特定技能「自動車運送業」とは?制度の基本を理解する
2024年4月、深刻な人手不足に直面するトラック・タクシー・バス業界を支えるため、特定技能1号の対象分野に「自動車運送業」が追加されました。
国土交通省と出入国在留管理庁が所管し、2029年3月までの5年間で最大24,500人の外国人材受け入れが見込まれています。
対象となる職種は「トラック」「タクシー」「バス」の3区分で、それぞれ求められる運転免許・日本語能力・試験内容が異なります。
トラック運転者は第一種運転免許と日本語能力試験(JLPT)N4相当以上(または国際交流基金日本語基礎テスト合格)が必要です。
タクシー・バス運転者は第二種運転免許とJLPT N3以上に加え、新任運転者研修の修了が必須となります。
全職種共通で、国土交通省が所管する「特定技能1号評価試験」への合格も条件です。
この分野は事故防止や労務管理の観点から要件が細かく設定されており、受入機関(企業)側にも外国人申請人側にも、他分野以上に慎重な準備が求められます。
以下では、受入機関・外国人申請人(国内採用/海外採用)・事故発生時という3つの視点から、押さえておくべき注意点を整理します。
2. 受入機関(企業)が注意すべきポイント
自動車運送業分野で外国人を受け入れる企業には、他分野にはない独自の要件が課されています。
第一に「自動車運送業分野特定技能協議会」への加入が必須です。
2025年1月17日から受付が始まっており、在留資格の申請時には協議会の構成員であることを証明する書類の添付が求められます。
証明書の発行には数週間から1カ月程度かかる場合があるため、受け入れを決めたら早めに手続きを進める必要があります。
第二に、事業区分として道路旅客運送業または道路貨物運送業の許可を有していることに加え、トラック運送業では「安全性優良事業所(Gマーク)」認定、旅客運送業では日本海事協会の「運転者職場環境良好度認証制度」の認証取得が求められます。
安全管理体制が整っていない事業者は、そもそも受け入れの土台に立てません。
さらに、タクシー・バス事業者には新任運転者研修の実施義務があり、雇用形態は派遣が認められず直接雇用に限られます。
運転免許取得費用は企業負担が望ましいとされており、本人負担とする場合は事前の説明と同意が必須です。
これらを怠ると、協議会からの指導や在留資格申請の不許可につながるおそれがあります。
3. 外国人申請人が注意すべき点【国内採用の場合】
既に日本国内に在留している外国人(技能実習修了者や他の在留資格保有者など)を採用するケースでは、比較的スムーズに手続きが進む一方、見落としがちな注意点もあります。
まず、特定技能1号への移行には「特定技能1号評価試験」への合格が前提となり、あわせてトラックは第一種免許、タクシー・バスは第二種免許を保有している必要があります。
既に日本の運転免許を持っている場合でも、対象免許の種類が業務内容と一致しているか、免許の有効期限や違反歴に問題がないかを事前に確認しておくことが重要です。
また、技能実習など従来の在留資格から特定技能への変更申請では、これまでの活動実績や素行(税金・社会保険料の未納がないか、資格外活動の違反がないかなど)が審査対象になります。
過去に軽微であってもルール違反があると、変更許可がスムーズに下りない可能性があります。
日本語能力についても、日常会話ができるレベルと、業務で求められるN3・N4水準の読み書き能力は別物です。
試験対策を計画的に行い、必要書類(在職証明、納税証明など)を早めに揃えておくことが、国内採用を成功させるポイントです。
4. 外国人申請人が注意すべき点【海外からの採用の場合】
海外に在住する外国人を新たに採用する場合は、国内採用よりも手続きが複雑になります。
多くのケースで、まだ日本の運転免許を保有していないため、まず「特定活動(特定自動車運送業準備)」という在留資格で入国し、日本国内で運転免許の取得や新任運転者研修を修了したうえで、特定技能1号への変更許可を受けるという2段階のプロセスを踏みます。
このとき、海外からの入国時には「在留資格認定証明書交付申請」が必要で、申請書類の準備から証明書の発行、査証取得、入国までにまとまった期間がかかる点に注意が必要です。
また、特定活動としての在留期間はトラック運転者で6カ月、タクシー・バス運転者で1年と定められており、更新はできません。
この期間内に免許取得や研修修了、特定技能1号への切り替えまで完了させる必要があるため、スケジュール管理が極めて重要です。
なお、特定活動としての在留期間は、特定技能1号の通算在留期間(上限5年)には算入されません。
免許取得費用の負担割合や帰国時の対応など、来日前に契約内容を書面で明確にしておくことも、後のトラブル防止につながります。
5. 外国人運転手が事故を起こした場合の在留資格上の注意点
外国人運転手が業務中に交通事故を起こした場合、労災・保険対応だけでなく、在留資格そのものへの影響も理解しておく必要があります。
過失運転致傷等の罪は、最大で7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科され得ます。
もっとも、軽微な事故(治療期間が短い、被害者との示談が成立しているなど)であれば起訴猶予となり、刑事処分を受けずに済むケースも少なくありません。
一方で、重傷事故や飲酒運転などが絡む悪質なケースでは実刑判決を受ける可能性があり、1年を超える実刑(執行猶予を除く)は退去強制事由に該当し得ます。
また、実刑に至らない場合でも、在留期間更新の審査では「素行が善良であること」が要件の一つとされており、事故の内容や刑事処分の有無・程度は審査官の判断材料になります。
特定技能は協議会への報告義務もあるため、事故発生時は受入機関が速やかに関係機関へ報告し、被害者との示談を早期に進めるための弁護士対応を取ることが、本人の在留継続にとっても重要です。
日頃からの安全教育と、万一の事故対応フローを整備しておくことが、企業・外国人双方を守る最善の備えとなります。
まとめ
特定技能「自動車運送業」は2024年4月に新設された分野で、トラック・タクシー・バスの各職種ごとに免許・日本語・試験の要件が細かく定められています。
受入機関は協議会加入や安全認証の取得、直接雇用の徹底など独自の義務を負い、怠ると受け入れ自体ができません。
外国人申請人側も、国内採用であれば試験対策と過去の素行・書類準備を、海外採用であれば特定活動を経由した免許取得と厳格な期限管理を意識する必要があります。
さらに、万一運転中に事故を起こした場合は、刑事処分の重さや示談の有無が在留資格の更新審査に影響するため、企業・本人ともに日頃の安全教育と事故発生時の迅速な対応体制を整えておくことが欠かせません。
制度を正しく理解し、双方が注意点を共有しておくことが、外国人ドライバーの安定した雇用と定着への近道です。